大判例

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東京高等裁判所 平成10年(う)1945号 判決

被告人 米山寿仁

〔抄 録〕

職権をもって検討するに、原判決が第三及び第五の事実について強盗強姦罪を認めた点は是認することができない。以下、その理由を述べる。

1 強盗強姦罪は、強盗たる身分を有する者が、強姦をすることにより成立する犯罪であるから、強盗の着手は、強姦行為の実行の着手に先行するか、少なくとも同時になされなければならず、姦淫行為をするまでに強盗たる身分を取得していない場合には、強盗強姦罪は成立しないといわなければならない。

2 そこで、この観点からみると、記録によれば、原判示第三及び第五のいずれの事実においても、原判決が認定するように、被告人は、住居に侵入する時点においては、金員を盗み取るとともに機会があれば女子を姦淫しようと考えていたものであって、強盗の犯意を有していたと認めることはできない(この点について公訴事実は、「金員を強取し、その機会に婦女を強姦しようと企て」住居侵入の上強盗強姦した旨の記載になっているが、住居侵入の段階で強盗の目的を認定することは困難である。)。また、被告人は、被害者を強姦する際に被害者に対して金銭的要求を全く行っておらず、もっぱら強姦行為のみに終始していることが明らかである。そうすると、被告人が被害者に刃物を突き付けて脅迫した行為が同時に強盗の実行行為として評価されるか否かについては、慎重に検討しなければならない。

3 被告人の第三の犯行に関する検面調書(乙二三)には、、「金員の物色をしたが薄暗く、バッグなどを見付けることができなかった。」との記載の後に、「私は寝ている女性の所に近づき、右手に持った包丁を顔の前の首筋辺りに突きつけるようにして起きろと言いました。」と記載されているが、その強姦の実行の着手に及ぶ際、被告人が併せて強盗行為を行う意思であったと明示する記載はない。そして、強姦後の行動の記載として、「私はトイレから女性の所に戻ったときに、机の上の本に挟まっている一万円札一枚に気づきました。一万円札は本の間からほとんど全部といっていいくらいはみ出ている状態でしたから、私の目に付いたのです。私はその一万円札を盗ってズボンのポケットに入れました。」となっている。

また、第五の犯行に関する検面調書(乙二一)には、「今回、私が『あずさ』というアパートに侵入し、包丁を突きつけて強盗をし、その機会に強姦したことは全部間違いありません。私は、最初から強盗する目的で行きましたし、一人住まいの女性ならば強姦する目的でした。」「(強姦後)、私は、先程話した電気をつけ、ゴムを探している時に、棚の上にある財布に気がついていましたので、女性に下を向いていろと言って、その間に財布の中から札のお金を抜き取りました。」とあるが、員面調書(乙六)には、「(強姦後)、俺は、逃げ出すことを考えながら、綺麗な部屋だなあ女性の部屋とはこういう綺麗な部屋のことを言うんだろうなと思いながら見回したところ、東側の所に棚があり、そこには四、五枚の写真が飾ってありました。その付近に二つ折りの財布が置いてあるのが目に入ったのです。俺は、女性がぐったりしていたので、女性に分からないようにその財布を手に取って見ると、札入れの所に札が入っていたので、そのまま札だけを抜き取りズボンのポケットにねじ込み、財布は元に戻しました。」と記載されている。

そして、金員奪取に関する心情を述べた検面調書(乙二四)には、「私としては、金を奪うことが第一の目的でした。できれば、相手に気づかれないように金を盗ろうと思っていました。相手に気づかれないようにして金を盗ることができなければ、仕方がないので、すでにお話してあります、レオパレスに住む甲田(仮名)さんという女性の部屋に侵入したときのように、脅かした後、金を要求したり、『あずさ』というアパートに住む乙野花子(仮名)さんという女性の場合のように包丁を突きつけて強姦し、彼女がおびえている中で金を奪うなどしました。今回の都留市内の『遊学舎』というアパートに住んでいた丙川恵子(仮名)さんという女性の部屋に侵入したときも、金の入っているバッグのようなものを見付けようとしましたが、見付からなかったので、包丁を突きつけて強姦し、その途中で机の上の本に挟まっている現金を見付けて、一万円札一枚を奪いました。丙川(仮名)さんという女性は、目隠しをしていたので、私が金を盗ることに気づいていたかどうかは分かりませんが、そのときに彼女は震えている感じで、おびえていることは分かっていましたので、たとえ金を盗られることに気づいたとしても、抵抗しないものと思っていました。」との記載がある。しかしながら、右記載によっても、被告人が強姦の実行の着手に及んだ時点において、金員強取の意思を有していたと断定するには合理的疑いが残るものといわざるを得ない。

なお、室内において、強姦の実行行為が終了した後、被害者が畏怖し、反抗を抑圧されている状態を利用し、同室内にとどまって、同室内の金品を奪取する行為は、強盗罪に該当するものというべきである。

4 以上のとおり、被告人の第三及び第五の犯行については、強姦の実行の着手の時点において、強盗の犯意を有していたと認定するには、合理的な疑いが残るといわざるを得ないのであって、本件については、住居侵入、強姦、強盗の各罪の成立を認めるべきであるから、原審の認定は、事実を誤認したものというべく、右誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかである。そして、原判決は、原判示第三、第五の事実と原判示第一、第二、第四、第六の各事実とを併せて、刑法四五条前段の併合罪の関係にあるものとして一個の刑を言い渡しているので、原判決は全部について破棄を免れない。

(高橋省吾 青木正良 本間榮一)

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